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Vitus 僕のピアノコンチェルト

スイス映画 (2006)

天才児として生まれた少年ヴィトスが6歳でピアノを始め、12歳でコンサートを開けるまでになるまでを描いた作品。ただし、『青きドナウ』(1962)や『ボーイ・ソプラノ/ただひとつの歌声』(2014)〔ピアノではなくソプラノだが〕のように、音楽を中心とした主導権争いの映画ではなく、ピアノはどちらかちいえば添え物で、ヴィトスが祖父と父の経済的危機を救うためにドクター・ウルフの名で行う株式売買や、8歳も年上の女性との真剣なラヴ、果ては、プロペラ機の操縦まで 物語は幅広く分散している。それでも、ここが重要なのだが、先にあげた前2作では、主役のソリストは “口パク” だが、この映画では、難曲を本人が弾いている。それは、恐らく、映画のラストに、本物のコンサートを入れたかったからであろう。この映画がユニークなのは、ヴィトスが天才であることに疲れ、アパートの7階からの飛び降りを演出し、その結果、知能が実年齢相当に低下したフリをする場面であろう。ピアノの能力も同時に低下するが、ついに我慢できなくなってピアノを弾いてしまい、両親以上に互いに好いている祖父に見つかってしまう。そして、その後の展開が、映画を “他に類例のないもの” にしている。

映画の37分までは、冒頭の一部を除き、6歳のヴィトスの物語。その後120分までが 12歳のヴィトスの物語。この6歳の部分は、子役の選び方のミスもあり、どう見ても天才児には見えないが、12歳のヴィトスの物語の伏線を提示するパートでもある。①田舎に離れて済む 少し変人の祖父と、とても仲がいい、②本物のピアノを買ってくれと両親に催促する、③保育施設ではすごく生意気、④ベビーシッターのイザベルが好きになる、⑤祖父の作った飛行用の翼で遊ぶ、などがそれである。12歳のヴィトスには、12歳でこれだけ上手にピアノを弾けるだけあって、カリスマ的な雰囲気が備わっている。最初に、③が加速し、12歳で入った高校3年生で、ものすごく生意気な態度を取り、卒業試験を受けて、とっとと高校から出ていくよう校長から言われてしまう。②は格段に上達し、大人が対象の音楽アカデミーのピアノ教師の個人指導を受けて、どんどん上達していく。しかし、母が、一線を越えて先走ったことに強く反抗し、それを強く叱咤されたので、大胆な行動に走る。その時に使用するのが、⑤の翼。結果、ヴィトスは、知能低下に見舞われ、中学1年に逆戻り。しかし、ピアノが弾きたくなった祖父の家で、知能低下の嘘がバレてしまうが、祖父は、死ぬまで黙っていると誓ってくれる。祖父が金銭的に困っていることを知ったヴィトスは、株に熱中し、祖父を富豪にし、祖父はそれで念願のフライトシュミテーター、最後には、軽飛行機まで購入する。ここで、④の思春期版が挿入され、ヴィトスはかなり思い切ったプロポーズをし、無残な結果に終わる。ヴィトスは、株の操作の知識を、父の失業にも活用し、父のクビを切った悪い社長の会社を乗っ取る。こうして、映画がピアノから完全に脱線した後で、ヴィトスは、祖父の遺志に沿うべく、ピアノのレジェンドの元に行き、弟子入りする。その結果は、見事なコンサート・デビューとなって将来を嘱望される存在となる。

12歳のヴィトス役はテオ・ゲオルギュー(Teo Gheorghiu)。1992年8月12日生まれ。映画のラストの演奏会は、2004年10月7日に開催されたので、その時の年齢も12歳。現在、もうすぐ30歳になるが、現役のピアニスト。少し古いが、2017年1月22日に、イギリスのロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団と、リストが編曲したシューベルトの『さすらい人幻想曲』を演奏したYouTube映像は、https://www.youtube.com/watch?v=HyudieAdPq4 で見ることができる。また、2020年の claves records 発売のCDのサイト(https://www.claves.ch/collections/teo-gheorghiu/products/duende-teo-gheorghiu)で、収録の14曲が30秒ずつ視聴できる。さらに、テオ・ゲオルギューの公式ホームページは、http://teogheorghiu.net/だが、この中で、右上の「Concerts」をクリックすれば、今年のこれからのコンサートの予定が書かれている。6歳のヴィトス役はファブリツィオ・ボルサニ(Fabrizio Borsani)。1998年7月21日生まれなので、6歳。9年後に2つの映画に出演し、1つでは主役を務めているが、俳優と言えるかどうかは分からない。

あらすじ

映画の冒頭、オープニングクレジットの背景映像は、映画のラストの一部。12歳のヴィトスがブラックスーツに蝶ネクタイの姿で、遠くにアルプスの見えるフェンス沿いに歩いている。そして、柵を開けようとして、南京錠が掛かっているのに気付き、バッグを柵の中に放り投げ、身一つになって柵をよじ登る(1枚目の写真、矢印は南京錠)。フェンスの中は、小型機専用の飛行場。ヴィトスは屋外に駐機されている2人乗りのプロペラ推進の高翼機まで歩いていくと、鍵を取り出して操縦席のドアを開ける(2枚目の写真、矢印は鍵)。少し離れた隣では、この飛行場のエンジニアが、別の機の点検に気を取られている。ヴィトスは、バッテリーのスイッチをONにし、機体の先端に付いたプロペラが回り始める。それに気付いたエンジニアが、「エンジンを切れ」と言うが、ヴィトスは親指をぐっと立てて、「行って来るね」くらいの意味のサイン(3枚目の写真)。飛行機は滑走を始め、すぐに舞い上がる。そして、映画のタイトル『ヴィトス』が表示される。
  
  
  

場面は、6年前に戻る。6歳のヴィトスは、祖父が一人で住んでいる田舎の一軒家の工房〔職業は農家ではなく家具作り〕で、ブーメランを作っているのをじっと見ている。表面にきれいにやすりを掛けた祖父は、子供の頃、わしは “好きな仕事” のリストを持ってた。トップテンの1番目は、赤い字の “パイロット” だった」と話す(1枚目の写真)。ヴィトス:「2番目は? 棺桶作り?」。「覚えてない。他の9つは どうでも良かった」。祖父は、完成したブーメランを持って納屋の横に行き、ブーメランが戻ってきても安全なように木の柵の陰にヴィトスを立たせてから、投げる。出来が悪かったのか、投げ方が悪かったのか、ブーメランは、手作りの木造住宅の台所の窓を割ってしまう〔プロなので、修理は自分でできる〕。次のシーンは、一転して、スイスのドイツ語圏にある都市の郊外団地の最上階にある部屋。ヴィトスが、居間で、“5歳の誕生日に玩具のピアノを買ってもらった時” のビデオ(2枚目の写真)を嬉しそうに見ていて、見終わった後、「ママ、いつホントのピアノ買ってくれるの?」と尋ねる。母は、「パパに訊いて」と、責任を回避する(3枚目の写真)。
  
  
  

ヴィトスは、すぐに父のところに行き〔いつも家で試作品作りをしている〕、「パパ、いつピアノ買ってくれるの?」と尋ねる。「名付け親にお訊き」〔名付け親のルイーザは、母がパートで勤めている小さな出版社の女性社長で、占星術もやっている。前の節の “誕生日のビデオ” の写真で、右側の女性〕と、母より、もっとひどい責任回避。話をはぐらかす意味もあって、父は、ヴィトスのすぐ前に置いてあった 補聴器の試作品の説明をする(1枚目の写真、矢印)。「これを使えば、人間の耳の5倍もよく聞こえるんだ」〔5倍の意味不明/軽度難聴の人用の補聴器の規格(適用範囲:~40dB)では100倍の音量。僅か5倍で役に立つのか?〕。ヴィトスは、「コウモリは10倍聞こえるよ」〔10倍の意味も不明/聴力(最大周波数)のことだろうか? その場合、人21kHz、コウモリ400 kHzで、20倍弱となる〕と教える(2枚目の写真)。父は、「猫の耳みたいによく聞こえるから、『猫耳』と名付けるつもりだ」と言い、ヴィトスは、「『コウモリ耳の方がいいんじゃないかな』と、コウモリに拘る。父は、別の試作品をヴィトスに付けさせる(3枚目の写真、矢印)。超指向性の超小型マイクを両耳に付けるもので、双眼鏡で見た遠方の人の話し声が聞こえてくる。
  
  
  

そこに妻がやって来て、「約束は何時?」と訊く。夫は、「困った。OHPフィルムが見つからん」とイライラする。妻は、「よりによって、今になって? パラドックスね」〔ジレンマという意味で使ったのかもしれないが、普通は、“逆説” という意味なので、彼女の使い方が間違っている〕。「そうじゃない、よくあることだ」。ここで、ヴィトスが、「パパ、『パラドックス』って、どんな意味?」と訊くが(1枚目の写真)、早く家を出て行きたい母は、話を打ち切る。ヴィトスが連れて行かれた先は、両親が仕事中の幼児 を預かってくれる保育所。他の子供達は、保育士の女性の周りに座って、幼児らしい遊びに昂じているが、ヴィトスは、パラドックスの意味を調べようと、『Meyers Grosses Standard Lexikon』の第2巻を拡げて見ている(2枚目の写真、矢印)。その間に、母は、ルイーザに、仕事時間を正規の3割から7割に増やしてくれるよう頼む〔ヴィトスの世話は ベビーシッターに〕。その理由は、そのあとの、保育所に呼び出された母が受ける苦情から理解できる。保育士が母に話している間、ヴィトスは、黙々と一人チェスをやっている。保育士の文句の要点は、①子供達の前で地球温暖化について話し、全員死ぬと言ったので、子供達が泣き出し、父兄から苦情の電話があった、②言うことをきかない、③生意気、④フェンニンガー先生と呼ばずにオベリックス〔フェンニンガーと違って男性だが、同じように太った漫画のキャラ〕と呼ぶ。母は、保育所をやめさせ、ヴィトスを連れ帰る(3枚目の写真)。
  
  
  

映画では、順番が入れ替わっているが、父は、OHPを使って、補聴器の会社の社長とバカ息子の前で、自分の新製品のアピールをする(1枚目の写真)。その “売り” のポイントは、“隠す” のではなく、派手で目立つ色にして、“目立たせる” こと。かなり年の社長の方は、「君を信じていいものか?」と、少し腰は引けているが、人柄は良い。その子供というだけで次期社長候補になっているバカ息子の方は、「大学の落ちこぼれじゃないか」と、貶(けな)すことしかしない。父は、「ダメなら、競合他社に行きます」と言って説明を終える(1枚目の写真)。結果は、数時間後の電話で採用が通知され、その部門の責任者になる。バカ息子は、“ヴィトスの父” を連れて社内を歩きながら、「君みたいな出世は新記録だな」と嫌味を言う。父が管理職に就いたことで金銭的な余裕ができ、ヴィトスは念願のピアノをすぐに買ってもらえる。観ていて、納得できないのは、その直前までヴィトスは48鍵の玩具のピアノしか持っていなかったのに、ベビーシッターが来た時には、チェルニー30番練習曲を流暢に弾いていること。いつ、どこで、習ったのだろう? 家には玩具のピアノしかないので、ピアノ教師の家に習いに行っていたのだろうか? 母は、ベビーシッターのイザベルに、家の中を案内した後で、「ヴィトスがピアノの練習中は絶対邪魔しちゃダメよ」と念を押す。これも、ほん少し前まで玩具のピアノしかなかったのに、長年ピアノの練習を家でしてきたような時の表現で、違和感を覚える。ヴィトスは、母が出掛けてイザベルだけになると、弾くのをやめる(2枚目の写真)〔6歳のヴィトス役の少年は、ピアノを弾けないので、実際に弾いている時の映像は手だけ〕。そして、自分の部屋に入ってしまう。しかし、イザベルがドアを開けて、「中に入っていい?」と訊くと、「静かにね。本読んでるから」と答える。イザベルが、ベットの鉄柵ヘッドからぶら下げてある黒いコウモリの人形を手に取り、「知ってた? これ私が作ったのよ。あなたの1歳の誕生日にあげようと」と言うと(3枚目の写真)、ヴィトスは イザベルに好感を抱くようになる。
  
  
  

ヴィトスの両親は、アパートの最上階の部屋の内装を全面的にやり直し、父の会社や母の知人らを招いて盛大なパーティを開く。祖父は、わざわざ田舎から出てきたのに、パーティに相応しい服装で来なかったため、嫌味を言われ、「仮装パーティには出ない」〔実際には、仮装ではなく、普通のパーティ〕と怒って、帰ってしまう。パーティが始まると、全員の手が料理の方に伸びる(1枚目の写真)。社長は、“ヴィトスの父”に、「的確なタイミングで株式を公開するのは、天才的なひらめきだ」「“猫耳” は多くの投機家を惹きつけるだろう」と褒めるが、バカ息子は、「僕は、まだ、公開には反対だ。リスクが高すぎる」とブツブツ(2枚目の写真)。そのうち、別のグループの中で、名付け親のルイーザがヴィトスのピアノの才能について一言褒める。さらに、社長がピアノに触って、「ピアノを弾かれるのですか?」と訊いたことから、ヴィトスの名が出る。当然、バカ息子は、置いてあった楽譜を見て、「これは、難し過ぎるのでは?」と、暗に批判する。その時の母の返事が、「いい先生について6ヶ月練習しました」というものなので、このシーンはあれから半年後、ということになる。バカ息子:「6ヶ月? 冗談でしょう」。そこで、父がヴィトスを連れて来ようとするが、ヴィトスは嫌がって抵抗する。無理矢理ピアノの前に座らされたヴィトスが、弾き始めたのは、何と、ドイツ民謡の『幼いハンス』(日本では『ちょうちょ』)。すごく幼児らしい曲なので、全員が、さもありなんと聞いている(3枚目の写真)〔これは、顔と手が映っているので、彼が弾いている〕。ここで、映像は手だけに変わり、曲も、急に、最初弾くよう母から言われた(“バカ息子” が「冗談でしょう」と言った)、ロベルト・シューマンの『子供のためのアルバム 第8番 勇敢な騎手』に変わる。社長は 「本当の神童だ」と驚き、演奏が終わると全員が、バカ息子を含めて拍手する。
  
  
  

パーティが終わった夜。2人は、満足してベッドに横になる。母は 「世界が知ったのよ。私たちが本当の神童を持ってるって」と嬉しそうに話す(1枚目の写真)。しかし、そのあとの言葉がひどい。「生意気な、小さな お猿さん」。ヴィトスは、父からもらった 超指向性の超小型マイクで、すべての話を聞いている。父:「あの子の才能を伸ばしてやらないと。今でしか、学べないこともある」(2枚目の写真、矢印)。母:「プレッシャーをかけちゃダメよ。すぐ反抗するんだから」。父:「少しくらいのプレッシャーがないと、先に進まん。ヴィトスには必要だ」。それを受けて、母はヴィトスを音楽アカデミーに連れて行く。応対に出たピアノの担当者は、ヴィトスの演奏を聞いた上で、「このアカデミーは大人向けで、その子はまだ学校にも行っていません。しかし、その子の才能は認めます。引き受けましょう」と言う〔このアカデミーは学校ではなく、ピアノの指導を受けに通う場所/6年後、ヴィトスが高校に通っている場面がある。両方に入学するわけにはいかないので、アカデミーは、ヴィトスがそれまで通っていたピアントーニ先生の代わりに、ピアノを教えてくれる場所〕。アカデミーがOKしたことで、2人は大喜び(3枚目の写真)。
  
  
  

しかし、それは、ヴィトスにとって、後から分かったことだが、悲しいことでもあった。翌朝、半年教えてもらったピアントーニという女性の先生に、母が、極めて厳しい調子で断りの電話をかけている。「いいですか、あの子は私たちの息子で、あなたは、その息子には力不足です。ええ、私も残念です。請求書を送って下さい。さよなら、ピアントーニさん」。ヴィトスは、強制的な別れが悲しくて、何も食べずに部屋に籠ってしまう(1枚目の写真)。次のシーンで、ヴィトスは、田舎の祖父の家に行き、“飛ぶハズのない” 人間のための翼作りを手伝っている。もう原型を試したのか、祖父が、「なぜ、飛んでくれないのかな?」とヴィトスに話しかける。「航空力学を少しは知ってるんだろ? 翼の曲面がクッションになって飛ぶと思うんだが」。ヴィトスは、「僕らに要るのは、コウモリみたいに薄くてすべすべした飛膜だよ」と言い、祖父も納得する。「そうか、すべすべした飛膜か」。ここで、祖父は、極めて無頓着、かつ、無神経なことをする。ヴィトスにノコギリを持たせ、かつ、板が動かないようにするため、ノコギリ近くの板を左手で持たせたのだ(2枚目の写真、矢印)。その時、ちょうど車で都会からやってきた母が、それを見て慌てて止めさせる。そして、祖父に〔両親のどちらの実父か分からない〕、「狂ったんじゃないの? 手を怪我したらどうするの?」と、小さなピアニストにさせるべきことではないと、強く批判する。それからしばらくして、ヴィトスは、薄い膜でできた翼を体に付けて走り回る(3枚目の写真)。1891年にドイツのOtto Lilienthalが 鳥の翼を研究して作り上げた “翼”(4枚目の古写真) で成功した短距離の滑空のことを考えると、もう少し翼が大きければ、丘の上から滑空くらいはできそうに思える〔ただし、Otto Lilienthalは1896年、より大きな装置を使った時、高さ15mから落下し、恐らく脳出血が原因で、翌日亡くなった〕
  
  
  
  

半年間のベビーシッターで、イザベルとヴィトスは友達となり、2人でいろんな話をするようになる(1枚目の写真)。イザベル:「大人になったら、何になりたい?」。「まだ、分んない」。「何でも分かってるんじゃ、なかった? 私は、ロック・シンガーになりたいわ」。そう言うと、イザベルは口ずさみ始める。すると、場面は変わり、イザベルが、ヴィトスの母の服の中から派手なものを選んで着て(首輪も借りている)、床ホウキを手に持って、ロックの屋外コンサートの “のり” で歌って踊り始める(2枚目の写真)。ヴィトスは、歌に合わせて演奏する。両親がアパートに戻ると、2人はソファで仲良く眠っている。理由は、シャンパンか白ワインのビンが1本空になっていて、2人とも酔っ払って寝てしまったから。父が、イザベルを家まで送り返した後で、父は、隠し撮りのビデオカメラを本棚から取り出し、イザベルが歌って踊っていた様子を2人で確認する。父は、ビデオを見て笑ってしまうが、母は、即座にベビーシッターをクビにすることに決める。そして、翌日、ルイーザのところに行き、自分がベビーシッターをするから、仕事は辞めると言う。一方、ヴィトスはイザベルのことで頭が一杯。翌日、祖父の家に行った時、態度が変なので、「恋してるのか?」と訊かれ、「違うよ。でも、大きくなった時、誰と結婚するかはもう決めた」と答える。そして、アパートに戻った時、イザベルの姿を探すが、どこにもいない。そこで、母に、「ママ、イザベルはいつ来るの?」と訊くと、ショッキングな答えが返ってくる。「サプライズよ。新しいベビーシッター、誰だと思う? ママよ」。「ベビーシッターなんか要らない。それに、イザベルは僕のガールフレンドだ」(3枚目の写真)。「イザベルは もう来ないの。責任のある仕事を任せるには 若すぎたから」。怒ったヴィトスは、本棚の本を床に落下させ、自分の部屋に閉じ籠もる。そして、母が小包を1階まで取りに行って戻って来ると、今度は、玄関に鍵がかかっていて中に入れない。ここで、ヴィトスが弾き始めるのが、リストの『ハンガリー狂詩曲 第6番』。ドアの外で母が何を言っても開けない。それは、父が帰って来てからも同じ。これが、6歳のヴィトスの登場する最後の場面。
  
  
  

12歳になったヴィトスが、同じ、リストの『ハンガリー狂詩曲 第6番』を弾いている。窓の外は夕方で、母がベランダからその様子を見ている(1枚目の写真)。場面は、すぐに変わり、高校の前にタクシーが乗りつけ、ヴィトスがスーツを着て降りてくる。広い階段にラフな格好で座っていた生徒のうち1人は、「見ろよ、“教授” がタクシーでやって来たぞ。何て生意気な奴だ。偉ぶりやがって、フツーの服くらい着やがれ」とブツブツ。しかし、いくら図体が大きくても、虐める訳ではない。次は、授業風景。教師は、「利率は1.258%で、継続的に振り込まれると、322日後に口座には幾らのお金があるか? 計算機を使わずに」と、問題を出す。全員がノートで計算を始めるが、1人、ヴィトスだけは、あまりに下らない問題なので、新聞を拡げて読んでいる(2枚目の写真、矢印)。教師は、「もう計算ができた者がいるな」と言って、新聞を取り上げる。ヴィトスは、「いいえ、先生。でも、計算ぐらいすぐできます」と言い、「口座に入金に引き落としもなければ、利子は216.6なので、322日後には、口座には19466.6あります」と、暗算で答える〔数字の意味不明〕。教師は、問題冊子を見て、「正解だ。だが、君の傲慢な態度は、私の知性に対する侮辱だ」と嫌悪感を示す。ヴィトスも負けていない。「先生、失礼ですが、僕が先生の知性を侮辱しているというのなら、ここには、知性を持った人間が2人いるわけですね」(3枚目の写真)〔この教師に知性はない と言いたい〕。この言葉に激怒した教師は、「バッグを持って教室から出て行け」と、追い出す。多くの高校生が、通路に足を出してヴィトスを転ばせようとするが、ヴィトスは見事にすべて避ける。夜、父が帰宅すると、母から、学校からまた電話があったと伝える。学校側指定の相談日に、父は出られないので、結局 出向いたのは母だけ。女性校長の話の要点は、①解決策が必要、②ヴィトスは クラス全体の前で教師をバカにする機会を常に狙っている(4枚目の写真)、③知能の高い子用の学校に入れるべき。母は、「そんな動物園に入れるには反対です」と答え、校長が示した唯一の案は、高校の卒業試験を受けろというもの。「12歳で?」。「そうです」。
  
  
  
  

ヴィトスは、6年前に指導を受け始めたアカデミーに行き、ピアノ教師の前で、『ハンガリー狂詩曲 第6番』の最後の部分を弾いている(1枚目の写真)。ピアノ教師は、「逸(はや)るな。左手をもっと抑えないと。分かるな?」と、静かに言う。「いいえ」。ピアノ教師は、右手で鍵盤を数回叩き、「強弱を、もっとゆっくり」と教える。「退屈です」。「最後の2小節だけ、もう少し “退屈” に弾いてみて」。ヴィトスは、言われた通りにし、教師の顔も満足そうになる。練習を終えたヴィトスは、アカデミーから出て行くと、父の会社に寄る。父は、バカ息子に次ぐ高い地位にあるので、もちろん個室を持っていて、ヴィトスは、父からピザを分けてもらう。その時に、「卒業試験、受けるのか?」と訊かれ、「さあ。どうして受けないといけないの?」と否定的な返事をする。「大学に行けよ。エンジニアになって、稼げるぞ。ピアノは趣味で続ければいい」。「13歳で、工科大学に?」(2枚目の写真)。「少し早過ぎるか。ウチで2・3年研修でも受けるか?」〔何という小人物。何という下らないサジェスチョン〕。父の言葉に満足できなかったヴィトスは、電車に乗って祖父に会いに行く。しかし、祖父の方が、もっとひどい。①コウモリの科学者、②建築家、③薬剤師、④家具職人(自部の跡継ぎ)、⑤銀行家、⑥タクシーの運転手、⑦パイロット、⑧肉屋、⑨獣医、⑩外科医。祖父は、ヴィトスの才能を一切無視している。ヴィトスは、「他の誰かになりたい」と言い出す。「例えば、誰?」。「さあ、誰でも。普通の人なら」(3枚目の写真)。祖父は、いつも被っている大好きな帽子を遠くに投げて見せ、「決められない時は、お前さんが好きな物を幾つか手放すんだ」と教える。
  
  
  

ヴィトスのピアノ練習量が減ったことに苛立った母は〔ヴィトスは、アカデミーの教師から「抑えろ」と言われたので、練習も “抑えてる” などと、口答えしていた〕、ヴィトスに特別な機会を与え、刺激してやろうと、ジーナ・フォアという “ピアノの世界のレジェンド”(架空の人物)に頼み込んで、会わせようと連れて行く(1枚目の写真)。このロケ地は、スイスにあるヴァルデック(Waldeck)城〔ドイツにも同名の有名な城がある〕。2枚目にグーグル・ストリートビュー(固定地点・空中)の写真を示す。ジーナ・フォアは、わざわざ門の所まで迎えに出てくれていた。彼女の姿を見たヴィトスは、「コウモリ〔Fledermaus〕みたい」と言う〔ヴィトスは、もともとコウモリが好きなので、悪い意味ではなさそう〕。ジーナ・フォアは、城内に2人を招じ入れると、「あなたがヴィトスなのね。会えて嬉しいわ」と言ってくれるので、どこかで彼の名前を耳に挟んだのかもしれない。そして、すぐに、「何を弾いてくれるの?」と訊く。ヴィトスは、「あなたに弾いて欲しいんです」と言う。「私に? 嬉しい言葉ね。でも、私は、あなたが スカルラッティのホ短調ソナタを弾くのが聴きたいわ」。ヴィトスは、「No」と断る。「いいわ、私も、あなたに何か弾いてあげる。でも、最初は あなたの番」。「気が進みません」(2枚目の写真)。ここで、業を煮やした母が 口を挟む。「私のために、弾いて」。ヴィトスは、もっと激しく反撥する。「なぜ、いつも、ママのために弾くの?」。ここで、ジーナ・フォアが間に入る。「ピアニストには、良い教師より、良い両親を持つ方ことの方が大切なの。ヴィトス、あなたは、お母さんのためや、私のために弾くべきではありません。音楽のために弾く気になるまで待ちましょう」(3枚目の写真)。帰りの車の中で、母の機嫌は最悪。映画のパンフレットには、母役の紹介のところに、「スイス人と結婚したイギリス人」と書いてあったが、それが一番よく分かる部分。母は、英語で、ヴィトスに対してわめき散らす。「さぞや満足でしょうね! ピアニストになりたがってた。忘れるのね。これを最後にきっぱりと!」。
  
  
  
  

ヴィトスは、凍ったような空気の車の中で、6歳の時、祖父が作った “薄い膜でできた翼” のことを思い浮かべる。そして、その夜。祖父にもらって部屋にしまっておいた “翼” を取り出し、ベランダまで運び出す。外は、滝のような豪雨だ。そして、ヴィトスは翼を付けてベランダから飛び降りる。位置関係を分かりやすくするため、12歳のヴィトスが初登場した時の、アパートの全体像を映したものを、日付と天候は違うが、2枚目に示す。2枚目の写真では、ヴィトスがピアノを弾いていたので電気は点いているが、今は、両親も寝てしまって真っ暗。ただ、ヴィトスが飛び降りたのは、7階建ての建物の一番左端のライトの点いたところからで、豪雨で翼は機能しなかっただろうから、彼は黄色の点線のように落ちたことになる。雷の音で目が覚めた母は、目覚めたついでに起き上がり、息子の様子を見に行くと、ベッドは空。そして、ベランダに出る窓は開けっ放し。窓の外には、靴が並べて置いてある。心配になってベランダから見下ろすと、思わず、両手で口を押える。次のシーンでは、砂利交じりの土の上に翼と一緒に横たわったヴィトスを、両親が心配そうに見守り、救急車がやって来るのを待っている(3枚目の写真)。
  
  
  

病院に搬送されたヴィトスは、各種の検査を終え、ベッドに横になっている。担当の医師は、「ラッキーでした。ケガはどこにもありません。高所からの転落なのに、驚くべきことです」と言う。母が、「意識不明ですね」と心配すると、「現時点では、当初の診断は脳震盪です」。「『現時点では』って?」。「数日後に、(脳内部で)傷が発生する場合があります」(1枚目の写真)「脳損傷では、長期的な影響を排除することはできません」。次のシーンでは、ヴィトスは意識が戻り、見舞いに来た祖父とチェスをして、王手となって、負ける〔大きくなってから、一度も祖父に負けたことはない〕。そして、普通に歩いて退院。ヴィトスは、乗るべき車を間違えてドア・ノブに触り、母に注意される。アパートに戻ったヴィトスは、キッチン・テーブルに座り、入院中に父が持って来た “高校の卒業試験用の参考書” を見ているが、さっぱり分からないので、まとめてテーブルの端まで滑らせて落とす(3枚目の写真)。母が、「どうしたの?」と訊いても、答えない。心配になった母は、ヴィトスの脳の機能テストを受けさせる。担当した女性は、「話す力、読む力、記憶力、知覚について調べましたが、標準レベルでした」と説明する。「標準」の意味を訊いた母に、担当者は、年齢相応だと答える。母が IQテストに付いて訊くと、意味はないと言いつつ、約120と答える。母は、「前は180だったのに。そんなこと、あるんですか?」と悲痛な質問。担当者は、原因不能と答えつつ、少し時間をかけて様子を見るよう勧める(4枚目の写真)。
  
  
  
  

それからどのくらい日数が経ったのかは分からないが、ヴィトスは年齢相応の学校に通うことになり、担任の教師によって教室まで連れて来られる。そして、他の学校から来た転校生として紹介される(1枚目の写真、矢印はヴィトスが座ることになる空席)。生徒全員が拍手で迎え、ヴィトスが空席に座ると、隣のイェンスは、手で挨拶する仕方を教えてくれる(2枚目の写真)。これまで、3歳年上の生徒達の中で浮いた存在だったヴィトスにとっては、楽しい経験だ。3枚目の写真は、アパートに戻ってからのピアノの練習。以前と違い、指が全く動かない。母は、「音楽は、心と指と魂から生まれるものよ、頭は関係ない」と、ついつい息子を責めてしまい、あとで後悔する。
  
  
  

それから数ヶ月は経っただろうか? ヴィトスは祖父の家に何回も行き、チェスで負けた後、祖父は  「工房に行こう」と言って立ち上がる。ヴィトスは、CDを聴いてからと言い、店で買って来た1枚のCDを、チェス台のすぐ奥にあるCDプレイヤーに入れ、リモコンで音を大きくする(1枚目の写真、矢印)。流れて来たのは、バッハの『ゴルドベルク変奏曲』。音が大きいので、家を出て工房に行った祖父にも、音が聞こえてくる。ヴィトスは、すぐ後ろに置いてあるピアノに寄りかかって音楽を聴いている。そのうちに、ピアノのイスに座り 鍵盤蓋に片肘を置いて頬を支える姿勢に変わる。工房には、音を立てる機械を使わない限り、絶え間なく音楽が聞こえてくる。ヴィトスは、鍵盤蓋に片腕と頭を置く姿勢になり、遂に、我慢できなくなって、鍵盤蓋を開ける。そして、鍵盤にそっと触れてみる。『ゴルドベルク変奏曲』は、30の変奏から成っていて、それぞれの変奏の間には僅かの無音の時間がある。ヴィトスは、リコモンを持って待ち構え(2枚目の写真、矢印)、変奏が終わると同時にCDを消し、同じタイミングで、今度は、自分でピアノを弾き始める。この段階で、ヴィトスが母の前でピアノを弾けなかったのは、“弾けないフリをしていた” だけだったと分かる。祖父にとっては、同じような曲が連続して聞こえてくるので、そのまま作業を続けているが、音が鮮明になったような気がしたので、そっとドアを開けて見てみる。すると、弾けなくなったハズのヴィトスが、見事に演奏していた(3枚目の写真)。祖父は、ドアをそっと閉める。夕食のシーンは、そのことを指摘されたらしく、ヴィトスが、「ごめん」と謝る場面から始まる。「いいさ、心配するな。誰にも言わん」。「約束する?」。「約束だ」。「永遠に?」。「わしが死ぬまで」。2人は握手する。「信じられん。みんなを騙すとは。教師も、両親も、医者も。すごいな。脱帽だ」。「一番難しかったのは、チェスで負けることだった」。その言葉に、祖父は “勝っていた” とばかり思っていたので、愕然とする(4枚目の写真)。どこにも書いてないのだが、ひょっとして、ヴィトスは、アパートの7階から “翼” だけ落とし、自分は、エレベーターで1階まで降り、気絶したフリをしたのではないか? WEB上のどの記事を見ても、7階から落ちて、下が地面の場合、たとい幼児でも、骨折どころか、かすり傷一つないという事例は発見できなかった。普通なら、運が良くて骨折、悪ければ即死なので、そんな危険をヴィトスが犯すとは思えない。
  
  
  
  

祖父の前では天才に戻ったが、ヴィトスは、他の場所では、“普通の子” を続ける。学校では、黒板の前に立たされたヴィトスに、担任が、「カイロを流れる川くらいは知ってる?」と訊く。「さっぱり〔Chei Arnig〕」(1枚目の写真)。ドイツ語圏のスイスでは、義務教育では、スイスドイツ語を使わずに、ドイツ語を使うことになっているので、教師は、「ドイツ語で」と指示し、ヴィトスは、「さっぱり〔Keine Ahnung〕」と言い直し、さらに、「でも、地図で見てあげるよ」と追加する。「ありがとう。でも、川の名前は知ってるわ」。「先生たちって、僕らより、いっぱい知ってるんだね」。「そう、たいていはね」。「なら、誰が蒸気機関を発明したのか、知ってるの?」。「もちろん 知ってるわ。ジェームズ・ワットよ」。「なら、なぜ、ジェームズ・ワットの先生が 蒸気機関を発明しなかったの?」。この変な質問に、笑い声が起こり、イェンスは、「やったな」とばかりに手を上げる(2枚目の写真、矢印)。
  
  

ある日、ヴィトスが祖父の家に行くと、祖父は ペンキが変色して一部剥がれ落ちている天井を突(つつ)いている。「どうしたの?」。「屋根が、頭の上に落ちてきそうだ」。そして、お金がないから修理は自分ですると言う〔重要な伏線〕。そのあと、経済的な心配を口にする。「計算してみたんだが、あと5年ちょっとで、蓄えが底をつく」(1枚目の写真)。「なぜ、パパに頼まないの? 助けてくれるよ」。「お前さんのパパは、借金生活だ。今使っているお金は、6ヶ月後の稼ぎでようやく補填できる」。それを聞いて、ヴィトスはびっくりする。その夜、アパートに戻ったヴィトスは、両親の寝室から聞こえてくる深刻な言葉を耳にする。「破滅だ」。「どうしたの?」。そこで、ヴィトスは、ドアをそっと開けて耳を澄ます(2枚目の写真)。「今年の決算報告は 目も当てられない。絶望的だ」〔これは、“会社の重要な内部情報”〕。翌日、学校に行ったヴィトスは、パソコン室に行き、父の会社の年次業績を見てみるが、ほぼ右肩上がりになっている。そこにやって来たイェンスが、「新しいゲーム?」と訊く。「ううん、株式相場だよ」。「クールだな、株式ゲームか」(3枚目の写真)。「まあね」。「株式って、すごく悪いことなんだろ」。「ぜんぜん、凄いんだ。1000%の利潤が得られて、失うのはたった100%なんだ」〔DVDの日本語字幕は 「利益は10倍に増えるのに、失うのは元本だけだ」。共に、意味不明〕
  
  
  

ヴィトスは、祖父の家に向かう電車の中で、新聞の株式欄をじっと見ている。そして、祖父に、「信頼できる情報筋の話では、フォナクシス社の株価は暴落するんだ。この内部情報を生かして、プット・オプション〔満期日までに、その時点での価格に関係なく、一定価格で原資産を売る権利〕を買おうよ」と勧める(1枚目の写真)。「リスクはゼロだよ」。「違法だと思うが」〔インサイダー取引〕。ヴィトスは、その指摘を無視し、「利益は、ナスダックのハイテク株に再投資するんだ。あっという間に大金を稼ごう!」。そう言うと、1枚の書類を取り出し、祖父にサインを求める。その書類は、株式市場にオンラインでアクセスするためのもの。コードネームは、英語で、「ドクター・ウルフ」。祖父の 家と年金を合わせた全財産は34万スイスフラン〔当時の交換レートで、約3000万円〕。祖父は、それを失えば 「あっという間」にホームレスだと心配するが、ヴィトスは、「飛行機は地上にあれば安全だけど、飛ぶためのものだ」と、祖父の好きな飛行機を例に出して〔どう見ても、関係はないが〕、祖父のサインをもらう(2枚目の写真)。それから、何日経ったのかは分からない。ただ、プット・オプションの満期日が近づき、2人はノートパソコンで株価を見ている、祖父は、気が気でない。「2時だ! もう、そろそろじゃないのか?」。そして、さらに2時間が経つ。イスにぐったり座っていた祖父は、「もう我慢できん。寝てくるか、散歩に行くか、その両方だ。ここにいると、心臓発作になる」と言って立ち上がる。すると、株価が急落し始める。「どんどん下がってるな」(3枚目の写真)。「これで、いいんだよ、お祖父ちゃん。狙い通りだ! お祖父ちゃんは大富豪だ」。
  
  
  

ヴィトスが家に戻ると、父が暗い顔をして新聞を見ている。そして、ヴィトスに、「今日は、悲惨な一日だった」と話す。「何があったの?」。「複雑でな… 株式市場のことなんだ。会社は、かつてない危機に見舞われている。最悪の事態は避けたいが、どうしていいのか分からんのだ」(1枚目の写真)。ヴィトスは、「果物を助けるためには、木を切らないと」と言うが、何だか、逆なような気もする〔果物を社員、木を会社とすれば、会社の倒産を防ぐには、人員削減をするという意味に取れる。人員削減は、紹介は省いたが、以前、父が今回の危機対応に言っていた方針〕。そのあと、CDの店に行ったヴィトスは、思わぬ店員に会ってびっくりする。ベビーシッターだったイザベルなのだが、相手は、彼がヴィトスだとは気付かず、「何かお探し?」と訊く(2枚目の写真)。ヴィトスは、適当なロック・バンド名を言い、イザベルが探しているのを、恋人を見るような目で見る(3枚目の写真)。
  
  
  

それから、またしばらくして、ヴィトスが祖父の家に行くと、姿がどこにもない。そこで、よもやと思い、納屋の扉を開けると、中には巨大な金属製の箱があり、それが動いている(1枚目の写真)。行く手に小さな階段が置いてあったので、上がると、ドアがあり、開けると中に祖父がいた。それは、何とフライトシミュレーター〔訓練用の模擬飛行装置〕。ヴィトスが、副操縦席に座ると、祖父が説明する。「銀行から戻ったところだ。わしの口座には、327万1000スイスフラン〔約3億円弱〕ある。ありがとよ。お陰で、このフライトシミュレーターも買えた(2枚目の写真)〔327万スイスフランは、フライトシミュレーターを買った後の残金〕。ヴィトスは、「僕もやってみていい?」。「いいぞ。わしが、副操縦士で付いていればな」。
  
  

また別の日、帰宅した父が、今日あった重大事を母に話し始める。内容は、今日、社長が後継者を指名した。バカ息子のニックを除き、全員が父の方を見たが、社長の言葉は、「事業を、わが息子ニコラウスに任せることに決めた」というもの。それを聞いたヴィトスは、「そんなの、パラドックスだよ!」と批判する(1枚目の写真)〔この場合の使い方は間違っていない。しかし、12歳相当の知能になったフリをしながら、このタイミングで大人のような言葉を使うことは危険だと思うのだが…〕。自分の部屋に行ったヴィトスは、祖父のパスワードで株式市場にオンラインでアクセスし、何かをするのだが(2枚目の写真)、この時点では、それが何かは分からない。
  
  

父が次期社長を逃した会社では、バカ息子のニックが、父親から引き継いだばかりの会社をアメリカの投資会社の売るという案を重役会に提出する。“父” は、アメリカに会社ごと乗っ取られるだけだと反対するが、ニックは、投資の対象になるだけだと主張し、予め、“父” を除く全員に手を回しておいたこともあり、“父” 以外の反対者はなし。そして、会社の方針に造反する唯一の人物として、クビを言い渡す(1枚目の写真、左の矢印がニック、右の矢印が “父”)。その頃、フライトシミュレーターの操縦席に座ったヴィトスに、祖父が、話しかけている。「昨日、銀行に行った。前回、口座をチェックした時は、327万1000スイスフランだった。それが、573万6000スイスフラン〔約5億円強〕に増えていた。何でかな?」(2枚目の写真)。「利息だよ」〔ヴィトスが、相当大胆な売買をした〕。「75%も付くのか?」。「仕事もせんのに、何で、そんな大金が稼げるんだ?」。「とっても簡単だよ。お金に働かせればいいんだ」。別の日、祖父は、ヴィトスを飛行場に連れて行く。そこには、映画の冒頭に出てきた “2人乗りのプロペラ推進の高翼機” が駐機していて、それは祖父が購入したものだった〔飛行機は、あとで分かるがスイス製のPilatusAircraft社のPC-6。価格は900万ドル(当時の換算レートで約750万スイスフラン)。573万スイスフランではとても買えない。中古品だったのだろうか?〕。冒頭にも登場したエンジニアは、祖父がドアの鍵を開けて操縦席に乗ろうとすると、「何をされても結構です。飛ぶこと以外は」と言う〔祖父は、自家用操縦士免許は持っていない〕。結局、実際に乗った時は、操縦席が手前にあるので、ヴィトスが奥に座ることになる。祖父は、バッテリーの位置を訊き、次にエンジンをかけると、プロペラが回り始める。2人は、それで十分満足する(3枚目の写真)。
  
  
  

ヴィトスは、ネットを通じて新築のビジネス・ビルの最上階の全フロアを1年契約で借り〔ウルフ口座から支払い済み〕、不動産業者から、北京に出張中の財産家ミスター・ウルフの子息という立場で、鍵を受け取る(1枚目の写真)〔だから、背広にネクタイ姿〕。ヴィトスが、ここを借りた最大の理由は、ピアノの練習をする場所を確保したいから。そこで、購入したグランドピアノを搬入させると、あとの内装はほったらかしで、すぐに練習を始める(2枚目の写真)。
  
  

CDの店に行ったヴィトスは、ピアノの名曲をヘッドホンで聞きながら、他の客の応対をしているイザベルをじっと見つめている(1枚目の写真)。そして、自分の番になると、10枚以上のCDを購入するので、いいお客さんだ。ヴィトスは、買って来たCDを床に置いたCD プレイヤーで再生し、ノートパソコンを立ち上げる。電話のウルフの留守録には、こんな伝言が入っている。「こちら、Kempinsky。アルゼンチンのジャンク債〔デフォルトの可能性が比較的高い債券〕について、至急連絡を」〔返事は、どうするのだろう? 声だと子供だとバレてしまう。メールで済ますなら、なぜKempinskyもメールにしないのだろう?〕。至急の要請は無視し、ヴィトスは、ノートパソコンに入っていた、6歳の時の、イザベルの床ホウキのロックの動画を見る(2枚目の写真)。ヴィトスは、そこから音だけ取り出してCDに入れ、それを持ってCDの店に行く。そして、イザベルに向かって、ヘッドホンを手に持って、「ねえ、これ聞いて」と、声を掛ける。イザベルは、すぐに、昔の自分が歌った曲だと分かり、“いいお客さん” がヴィトスだったと気付いて にっこり微笑む(3枚目の写真)。そして、ぎゅっと抱き締める。
  
  
  

それから何日後かは分からないが、ヴィトスは、「アンコール」という名の、如何にもアンコール・ワットを思わせるレストランに入る。スープが出された後、一口飲むと、ヴィトスはポケットからピンク色の箱を取り出し、「イザベルに」と言って、テーブルの真ん中に置く。イザベルは、それを手に取ると(1枚目の写真、矢印)、蓋を開け、中に1カラットを超えるダイヤモンドの指輪が入っているのを見て、「本物じゃないわよね?」と訊く。「もちろん、本物だよ」。指輪を手に取ったイザベルは、「どうかしてる。ダイヤの指輪なんて… 受け取れないわ」と言った後で、「とろこで、なぜ、指輪をくれようとしたの?」と訊く。「君を愛してるから」。「あんたが、私を愛してるの?」。ヴィトスは頷く。「私も、あんたが好きよ。それは、ベビーシッターだった時、私にとって弟みたいだったからなの。今でも、そうよ」。日本版DVDのBonus Featuresの中にある来日インタビューの監督編のなかで、このレンスラン・シーン全体について、ヴィトス役のテオが、「演技が終わる度に、『僕にはそんなことできないよ』と言っていた」「試写で見た時は、イスの陰に隠れていたよ」と述べている。それは、特に、この先の部分があるからだろう。ヴィトスは、こう言って、イザベルを説得しようとする。「統計的に見て、女性はそのパートナーより平均7歳若いんだ。でも、それって、ホントにバカげてる。だって、男の方が平均7歳早く死ぬから、女性は14年も未亡人になるんだ」。「あんたは、ホントに数学の天才ね」。「僕たちなら、同時に死ねるよ。それに、女性の性欲は、男性より10年遅れてピークに達するんだ」(2枚目の写真)。「性欲が?」。「そうなんだ。それが、離婚が多い原因なんだよ。だから、女性は、男性より年上でないと。僕たちなら、理想的なカップルになれる」。確かに、12歳の少年にとって、口にするのも恥ずかしい言葉が並んでいる。ここで、ウエイトレスがメイン・ディッシュを乗せた大きな台を持ってくる。奇妙なのは、カンボジアを全面に出したレストランなのに、メニューは、サテー(インドネシア料理)、春巻き(中華料理)、天ぷら、寿司、刺身(日本料理)で、カンボジア料理はゼロ。ウエイトレスが去ると、ヴィトスは、「イザベル、愛する僕の君」と、呼びかける。イザベルは、「セックスは、どうなるの?」と訊く。「しばらく 後回しにしよう。それは、選択可能なDNAの交換に過ぎないんだから」。「ヴィトス、私は女性で、あんたは12歳の子供なのよ」。「でも、それはただの数字だよ。僕は、君なしでは生きられない」。イザベルは、「保証する。あんたは、生きていける」と言うと、ダイヤの指輪の箱を元の位置に置くと(3枚目の写真、矢印)、すぐに席を立ち、「チャオ」と言うと、レストランを出て行ってしまう。
  
  
  

1人取り残され、茫然としているヴィトスの携帯に着信がある。それは母からで、緊急の連絡だった。ヴィトスが指示された病院に行くと、病室には、大けがをした祖父が横になっていた。ヴィトスは、大好きな祖父なので、額に触りながら、「ダメだよ、お祖父ちゃん、死んじゃダメだよ」と声をかける(1枚目の写真)。父は、祖父が屋根を直そうとして転落したと教える。その夜、両親が帰った後、ヴィトスは、1人で祖父に付き添ってベッドに頭を付けて寝ている。すると、意識を取り戻した祖父が、動き出したので一緒に目覚め、「どうしたの? 起き上がりたいの?」と訊く。「何か書くものを取ってくれ」。ヴィトスは、ベッド横のサイドテーブルに引き出しの中を見て、レポート用意1冊と ペンを取り出して、祖父に渡す。祖父は、ヴィトスをすぐ横に座らせると、「わしのことは心配するな。飛んだんだ」と、意外なことを言い出す。「飛んだの?」。「そうだ。トップシークレットだぞ」(2枚目の写真)。
  
  

祖父は、その日のことを話し始める。祖父は、フライトシュミレータで300時間飛んだので、飽きてしまい、自分の飛行機で飛んでみたくなった。そこで、PC-6の鍵を持つと、工房に行き巨大なボルトカッターを取り出し、早朝で誰もいない飛行場に向かう。そして、ボルトカッターでチェーンを切断し(1枚目の写真、矢印)、中に入ると、屋外に置いてあった愛機に乗り込み、エンジンをかける。滑走路は閉鎖されていたが、PC-6には滑走路は要らない。そこで、フルスロットルでブレーキをかけ続け、一気に解除し40メートル走ったら、45度で急上昇。祖父は、飛行の醍醐味を味わうことができた(2枚目の写真)、という内容。
  
  

話し終えると、祖父は、遺書を書き始める。「愛しい、ヘレン、レオ、ヴィトス…」(1枚目の写真)。その後も、祖父のナレーションが続く。「わしは、愛していると、言ったことがあるだろうか? あったとは思うが、十分でなかったことは確かだ。だから、言おう。心から愛していると」。遺書はこれで終わりではないのだが、書き終えた遺書を受け取ったヴィトスが、それを “赤いハート” を描いた封筒に入れ、封をするシーン(2枚目の写真、矢印)で、一旦 映像はここで途切れる。
  
  

映画では何の説明もないが、祖父は結局そのまま事故死し、その3週間後、名付け親のルイーザが、ドクター・ウルフからの手紙を受け取り、ヴィトスがピアノ練習用に借りたフロアを訪れる。彼女がエレベーターを降りると、ピアノの音が聞こえる。正面のドアの横には、「ドクター・ウルフ・ホールディング」という表示があり、ドアは少し開いている。ルイーザは、ノックしても反応がないので(1枚目の写真)、そのままピアノに向かって歩いて行く。そして、ピアノを回り込んだ所にいたのは、背広を着て、笑みを浮かべたヴィトスだった。「ごめん、ルイーザ。頼れる人が他にいない。僕を助けて欲しい。レオ〔父〕のことだよ。アメリカ人がフォナクシスを買おうとしてる」。ルイーザは、「思ってた通りね。何て悪戯っ子なの」と、笑みを浮かべながら、半ば呆れる。ヴィトスは、肩をすくめてニヤリとする。そして、立ち上がると、「あなたを、お祖父ちゃんの後任として、ドクター・ウルフ・ホールディングのCEOに任命するよ」と笑顔で言う(2枚目の写真)。ルイーザは、予想もできなかった話なので、ひたすらびっくりする(3枚目の写真)。
  
  
  

そして、場面は、その日の夜に変わり、シャンパンをポンと開けたルイーザが、2つのシャンパン・グラスに並々と注ぐ(1枚目の写真)〔ほとんどは泡〕。そして、ルイーザは 「あなたのフォナクシスに」、ヴィトスは 「僕のCEOに」と言い、乾杯する。ルイーザは、イスに座ると、その日あったことを報告する。「あの時の光景を見せたかった。私が、彼らの最終オファーの400を、420で上回ったときのアメリカ人たちを。交渉担当者は、激怒したわ。そして、叫んだの、『彼はふざけてる! 株は半分の価値しかないのに!』って」。ヴィトスは、「その通りだ」と、受ける。「彼らは、去る前に、ホスマン二世〔バカ息子社長〕から、ドクター・ウルフが彼の友人なのか、訊きたがってたわ」。「ホント? 彼、何て答えたの?」。「彼が知ってたのは、銀行家たちがウルフのことを “証券取引所の怪人〔das Phantom der Börse〕” と呼んでることだけ」。それを聞いたヴィトスは、褒められた気分で大喜び(2枚目の写真)。翌日、ヴィトスの父は、下っ端でも何でもいいから雇ってもらおうと、ホスマン二世の部屋を訪れる。すると、この能無し社長は、「この残忍な偽善者め。だが、いいか? 君なんかに、私を解雇するチャンスを与えると思うか?」と言うと、「ほら、これが辞表だ」と封筒を見せると(3枚目の写真、矢印)、それを机の上に置いて部屋から立ち去る。一体何事かと、レオ〔父〕は辞表の中身を読んでみる。「レオ様。君の亡き父上が “ドクター・ウルフ・ホールディング” の背後にいたこと、そして、君がフォナクシスの新しいオーナーだと分かったので、私は辞表を出すことに決めた」。
  
  
  

その頃、ヴィトスは、祖父の家に行き、PC-6の鍵を取ると(1枚目の写真、矢印)、家を出て、飛行場に向かう。母は、郵便受けを見に行くと、中に、赤いハートの絵の描いた封筒があったので、誰からだろうと見てみる(2枚目の写真、矢印)。そこから先は、ヴィトスの行動と、封筒の中に入っていた祖父の遺言のナレーションとが交互に入る。ここでは。後者に限定し、ヴィトスの関係は次節にまとめる。ナレーションの冒頭は既に書いたので、その次から始めよう。「ヘレンとレオ、君たちは、結婚が発明されて以来 最も素敵な夫婦だ。そして、ヴィトス、わしの最高かつ最も誠意ある友よ… お前さん〔ヴィトス〕はわしを幸せにしてくれた。今、この瞬間も、いついかなる時ですら。すべては、君たち〔ヘレンとレオ〕相互の愛にかかっている。それが、ヴィトスのよう素晴らしい人間を生み出したことは間違いないのだから。わしが、君たちから彼をしばしば奪ってしまったことを許して欲しい」(3枚目の写真)「わしはもう死んでいる。だから、生きている限り言わないと誓った秘密を 君たちに話すことができる。ヴィトスは頭から落ちなかった。彼の脳の機能は完璧で、わしらみんなを騙していたんだ。どうか、彼を叱らないで欲しい。子供にとって、頭が良すぎてしまう世界から逃げ出す方法が 他にあっただろうか? さようなら、君らのお祖父ちゃんより」。
  
  
  

ヴィトスは、飛行場の柵の扉まで辿り着くが、祖父と違い、ボルトカッターがないのでチェーンは切れない(1枚目の写真、矢印)。そこで、映画の冒頭のように、バッグを柵の中に放り投げ、身一つになって柵をよじ登る〔そのシーンは、冒頭にあるので、ここではカットされている〕。ヴィトスは屋外に駐機されている2人乗りのPC-6まで歩いていくと、鍵を取り出して操縦席のドアを開ける(2枚目の写真、矢印は鍵)〔冒頭と全く同じシーンだが、カメラが少し引いている〕。ヴィトスは、バッテリーのスイッチをONにし、エンジンを始動し、プロペラが回り始める。それに気付いたエンジニアが、「エンジンを切れ」と言うが、ヴィトスは親指をぐっと立てて、「行って来るね」くらいの意味のサイン(3枚目の写真)〔これも、冒頭と全く同じだが、カメラの向きが少し違う〕。飛行機は滑走を始め、祖父の教えに従い、40メートル走ったところで、45度で急上昇する。祖父と同じように、飛行を楽しんでいる姿を背景に、祖父の遺書の最後が流れる。「追伸 そして、ヴィトスよ、お前さんは、夢を追い続けるんだ」。
  
  
  

ヴィトスの飛行機は、ジーナ・フォアの城への並木道の上を飛び(1枚目の写真)、城の上空で向きを270度回転すると、城の前の庭園の入口の門を目指して芝生の上に着陸する。その大きな音で、ジーナ・フォアが、何事かと玄関を開けて外を見る。ヴィトスはPC-6のドアを閉め、まだ回っているプロペラを避けて門の階段へ向かう(2枚目の写真、矢印はプロペラ)〔ついでながら、PC-6は、実際に、ヴァルデック城の正門前に着陸している〕。ヴィトスは門を開けて中に入って行き、玄関で待っていたジーナ・フォアに 温かく迎え入れられる(3枚目の写真)。
  
  
  

映画の最後は、チューリヒのトーンハレ〔1895年完成の1455席のコンサートホール〕で行われた、チューリヒ室内管弦楽団の演奏会。曲目は、ロベルト・シューマンの『ピアノ協奏曲 イ短調』。1枚目の写真は、その最後の瞬間。2枚目の写真は、見事な演奏に感激する両親。映画のラストは、3枚目の写真(矢印はヴィトス)。なお、映画のパンフレットには次のように書かれている。「コンサート会場を借りる予算がなかったため、苦肉の策として演奏会のチケットを発売し、その資金を捻出しようとした。嬉しいことにチケットはすぐに完売。そして、テオの演奏に感銘を受けた観客は、スタンディング・オベーションで応えた」。
  
  
  

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